「お、猿野じゃねーKa。」
校内を歩いていた十二支高校2年、虎鉄大河はふと見知った姿を目にした。
猿野天国。
同じ野球部の後輩で…つい最近、恋人に昇格した相手である。
相手が昇格したのではなく、自分が昇格させてもらったのだが。
なにせ、相手(天国)にとっての自分(虎鉄)は、恋路の邪魔をする恋敵。
思う相手に恋敵扱いされるのは、いくら楽観的な虎鉄とはいえ、そう愉快なことではなく。
虎鉄には珍しくそれは真摯にアタック(古語)をかけたのだ。
その結果、やっと相手が自分の思いを受け入れてくれたのだ。
その相手が、今目の前にいる。
声をかけない手はなかった。
「おーい、猿…。」
だが、その声は途中で途切れた。
天国の傍に、もう一人いたから。
「凪…。」
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「すみません、猿野さん。手伝ってもらって…。」
「いえ、いいんすよ、これくらい。」
天国は、凪に笑顔を向けた。
凪が自分の手に余る荷物に悪戦苦闘しているのが天国の目に入ったのは先程のこと。
好意を持っている相手が困っているのを見過ごせる天国でもなく。
当然のように、天国は凪の手伝いをすることになった。
その好意は、ある存在のおかげで、微妙に変化していたのだが…。
「今日の部活は打撃練習からだそうですね。」
「そうっすね!やっぱ楽しみっすよ〜。」
「猿野さんの得意分野ですものね。」
「はい!守備もだいぶマシになってきたっすけどね〜〜やっぱ打つ方が俺は好きですね。」
天国は、以前よりずっと落ち着いた気持ちで凪と会話している自分に気づいていた。
前のような、体中に走るような緊張感や激しい幸福感はなくて。
優しく穏やかな相手への好意が心を覆っていた。
そんな天国の変化に気づいたように。
凪は言った。
「猿野さん、なんだか雰囲気…変わりましたね。」
「へ?そ、そうっすか?」
「ええ…前よりなんだか近いような…でも、遠くなったような、そんな気がします。」
「……凪さん…。」
…確かにそうかもしれない、と。
天国は思った。
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「じゃあ、猿野さん。また部活で。」
「ええ、また後で。」
凪が目的の教室へ入ると、天国は踵を返し、教室に戻ろうとした。
その瞬間、横から伸びてきた手に体ごとさらわれた。
「!?」
引きずり寄せられた教室は、無人の特別教室だった。
だが、そんなことを考えるまもなく、天国は抱き寄せられ。
深いキスをされた。
「ん…んぅ…っ…?!」
目に入ったのは、見慣れた、虎柄の バンダナ。
「こ……、んっ…。」
抗議したかったが、渾身の力も体に入らず。
ほぼされるがままになっていた。
ようやくキスが終わったあと、天国は腰を崩した。
「…立てなくなったのKaい…?」
いつも以上に艶のある声で天国に質問すると、天国は当然のごとく食って掛かった。
「…あー立てねーよ!!このクソトラ!!
何のつもりだよいきなり!!」
「そりゃこっちのセリフだZe?」
天国は驚いた。
付き合うようになってから、こんな虎鉄の姿を見たのは初めてだった。
名前のとおり、どこか獣のような目つきで。
怒りをもって…。
「何…、怒ってんすか…?」
「何じゃねーYo…。今、誰といた…?」
冷たい声。
だが。
「今って…凪さん……て、アンタもしかして……。」
今の言葉で、天国は状況がやっと飲み込めた。
つまり、今、彼は。
「…悪いかYo…。」
嫉妬したのだ。
天国が、凪と共にいるのを見た時。
生まれて初めて、瞬時に燃え上がるような怒りと妬み。
女の子に対してそれを感じたのも勿論初めてだった。
だから、その感情の動くままに行動していたのだ。
「Coolになんて…できねーんだYo…、お前相手じゃ…。」
自分でもカッコ悪いと理性では思っていた。
だが、そんなくだらない理性よりなにより、天国は自分のものだという欲が増していたのだ。
虎鉄は堪らないといった表情で、天国を見つめていた。
天国は、そんな虎鉄を見て。
苦笑すると共に、今度は自分から虎鉄の体を抱き寄せた。
「…!猿野…?!」
「すげー口説き文句っすね…さすがキザトラ先輩。」
天国は今の言葉に物凄く照れていた。
虎鉄からは見えなかったが、天国の頬は赤く染まっていたのだ。
「お礼にいいこと教えてあげますよ。
今ね、俺凪さん相手に緊張しませんでした。
でも今、めっちゃくちゃドキドキしてます。」
そう、虎鉄の耳元で言った。
「え…。」
「何ででしょうね。虎鉄先輩?」
その言葉に今度は虎鉄が真っ赤になった。
お互いにお互いが変わっていくのを知って。
お互いがお互いを、変えているのを知って。
それが恋だと、知った。
end
蘭華さま、大変お待たせして申し訳ありませんでした!!
ほんのり虎猿です。ありがち話ですが…。
せっかく二人の間にいる凪ちゃんを出させてもらったのですが、どうもうまく動けませんでしたね…。
修行不足を実感してます…。
散々お待たせしてこんなんですみません!
素敵リクエスト、本当にありがとうございました!
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